水色ウサギは琥珀の空を見ない

これは八月十四日付の夢日記である。目覚めた時あんまりに映像が鮮明だったので、文章にしたらおもしろそう!と書き始めたはいいものの、気がついたら三千字越えていた。というわけで、せっかくだしここに置いとこうと思う。これでもだいぶはしょってるので、所々文が雑だが(最後の場面が特にカオス)許してほしい。



私はいつものように、勉強しなければ……もっとずっと勉強しなければ……という強迫観念だけを抱えて夕方の町をさ迷っていた。
現在時刻、午後五時。塾は四時で閉まってしまった。
何としても七時まで(なぜ七時までなのかはわからない)はどこかで勉強していなくてはならない。
が、どこに行こうか。

行く宛もなく困り果てた私は、最終手段として学校に足を向けた。


学校は思いの外、人がいた。というか、ぎゅうぎゅう詰めだった。
校舎の外にまで椅子と机を出して、テラス席のようにしてカリカリシャーペンを動かしている生徒が敷き詰められており、ちなみにその中に知り合いはざっと五人。
あちゃあ、こりゃ無理だ。みんな勉強場所に飢えているんだな。校舎の中はどうだろうか。
いつもの階段を上ると、四階に出たところでいなくなったはずのK田先生に出会った。
うわっ。懐かしい顔。お元気ですか。髪切ったんですね……
先生は見向きもせず階段を降りていってしまった。少し傷つく。が、こういうことには慣れてる、大丈夫。

校舎の中も案の定、人でいっぱいだった。椅子のあるところ、必ず勉強している生徒がいる。うーん、だめか。それでも一応、最上階まで行ってみよう。
ずんずん階段を上って最上階に辿り着くと、軽音楽部の同期バンドのメンバーがいて、何やら話している。

(ここで何かしたんだけどわすれてしまった)

学校で勉強することを諦めた私は、外に出ると、じゃあもう無理じゃん、行くとこないじゃん、と日の傾きかけている中をフラフラ歩いた。(ちなみに学校の外観はなぜか家に一番近い図書館のものだった。)


気づけば、あたりは、現実世界で訪れたことのある京都の町並みに変わっていた。
といっても、お寺とか石畳とかはなく、普通の住宅街で近くに電車が走っており、私の左側にはコインパーキング、右側にはちょうど一年ほど前に来た個人経営の小さな雑貨店。辺りは既に薄暗い。(一年前に来たときも夕方だったな……)

そのまま何の気もなしに駅と逆方向に歩いていくとゴミ捨て場があったので、満杯の袋がうず高く積まれているそこに飛び込んだ。
ゴミ袋の上に大の字になって空を見上げる。すぐ近くに駅があったはずなのに、何の音も聞こえてこない。私は怪訝さ一つ感じず、京都の町はいつも静かでいいなんてセンチメンタルに浸っている。空はやわらかなオレンジと水色と既に空の大部分を占めている藍色のグラデーションに染まっていて美しい。住宅街に住んでいるらしいおばちゃん二人組がやってきて、こちらを見てコソコソ何か言うのが聞こえたが、気にしない。静けさと、薄暮の雰囲気に身を浸し続けた。



場面は変わって、私は京都の、これまた現実世界で一年ほど前に訪れたことのあるお寺の前にいた。目の前の木の板には天正寺と書いてある。(実在するのかは知らない)そうそう、中が広くて、枯山水がきれいなところだ。
いつのまにか隣にいた父と一緒に入ってみると、見覚えのない小道がずっと続いていて、しかもそこはたくさんの人で賑わっていた。浴衣の女の子もいる。どうやらお祭りをやっているようだ。
お昼時、広い空の向こうにはなぜかうちの近所のゴミ焼却場の煙突が見える。枯山水を観賞するには合わない無機質な音もする。ここ、こんなんだっけ?


と、回想に入る。
私は家にいて、いつものように目を覚ました。(※これは夢です)
まだ薄暗い部屋を横切ってカーテンを開ける。不完全な日光を部屋に招き入れると、布団を片づけようと思って手をかける。その時、布団に何かついているのを見つけた。小さな何かが十個ほど、よく見ればそれは虫だった。
ぎええ。私は小型な虫が何より嫌いである。てかこんな上で私はさっきまで寝てたのかと思うと鳥肌がたつ。
それらはさまざまな形態をしていたが、どれもが光に透ける綺麗な黄金色の羽をしており、まるで琥珀の中に閉じ込められている古代の虫であるかのようだった。ちょっと印象がましになる。見たところ全然動かないし、死んでるのかも。
とはいえ布団を片づけるにはどいてもらわなくてはいけないので、ばさ、と布団を揺らす。そしたら、死んでると思ったやつらがなんと、細い足を蠢かし始めたではないか。
無理。生きてる小さい虫、しかもこんなに大量。マジデムリ。
向かいの父親の部屋に助けを求める。
「そんなん潰せや」という。
それができたら損ないってば!
回想、おわり。よくわからなかった。


お祭り気分の道を父と二人で行くと、手水があったので、二人でバケツに水を汲み、道行く人に浴びせかけた。(最低……)
浴衣の若い女の子に、頭から、ばっしゃーん。
親に連れられている小さな女の子に、ざばーん。
あらら、大変だ。でもまあいいだろう。ほのかに甘い罪悪感を感じながら進む。

そして、何やら森のようなところに出た。
しんと荘厳なそこには相撲をする土俵みたいな台があり、その上に老若男女たくさんの人がひしめきあっている。今から何かの行事をするようだ。
父と二人でなんだこれ……となっていると、近くに同じようにして立っている部活仲間のW.Tさんがいたので、「なにこれ?」「わからん」「とりあえず行ってみようか」と、二人で人々に混ざった。いつのまにか父の姿は消えていた。

台に上がると、この行事の司会者だろうか、袈裟を来た眼鏡のお坊さんが「皆さん」と声を張った。ざわざわから一転、水を打ったように静まる人々。私たちも彼を注視する。
「今からこの石の下にいる虫を出してもらいます」
確かによく見れば足元には、小石というほどでもない直径十五センチほどの石がごろごろ転がっていた。
老若男女は、示し合わせたように石を持ち上げた。あわてて加わる。そして、石の下を払うような動作をすると、一斉に虫が飛び立った。小さな虫の集合が竜巻のようだ。うへえ。無理無理。部活仲間はいつのまにか人々に混ざって見えなくなってしまったので、代わりに近くにいた友達(ここではそういう設定の、中川大志と窪田正孝)と連れだって台を下りた。

少し森を散策しようと話しながら台から離れていく。そのとき、後ろを振り向いて、思わず私は固まった。
猫がいる。水色の猫が。台のところから追いかけてくる。
なんで。
追いかけてくるだけならまだいい、そいつはなぜか二足歩行している。
なんで、猫が二本足で歩いてるんだ。ありえない。遊園地のキャラクターのような、水色の派手な頭部にすっくと立った足。本物の猫のサイズのはずだが、段差のうえにいるせいでやたらと大きく見え、そのせいで一層怖い。
どうして私たちが追いかけられないといけないんだ。
焦りと混乱で頭がいっぱいになる。

そのとき、はっと気がついた。この猫は、さっき私が水をぶっかけた小さな女の子が持っていたおもちゃの猫ではないか。
そして私は思い出す。闇鍋さん(そういう名前の人)に意地悪をしたことを。
その昔、闇鍋さんの彼氏にこっそり言って、闇鍋さんなんか好きではないという素振りをさせたことがある。周りの人にも言って、みんなで闇鍋さんを無視した。
私は吸い寄せられるように台の方を見た。一人の中年男性が、弓のようなものを構えて鋭い眼光でこちらを見ている。
これだ。あの人は何かしら闇鍋さんに関係のある人で、私を殺そうとしている。
私は死ぬ。
途端に、自分がどれだけ愚かなことをしたかがひしひしと身に迫って実感された。
当たり前だ。闇鍋さんにあんなことをすれば、さっきの女の子にあんなことをすれば、こんな目に遭って当然だ。これは報いなのだ。私は死ぬ。
このことを二人に告げようとして、あわてて口を開く。
しかし、中川大志と窪田正孝は私の両側で目を閉じてうなだれていた。
うそだろ。こいつらまで、もう。
急いで脳内に紙を開けて綴る。私はどれだけ愚かなことをしたのか今やっとわかりました。…………
あ、と思った。
その瞬間、すべてが終わった。




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