すきだったひとの話

彼女に関して忘れられない出来事をいくつか。


小学6~中2の時、好きな女の子がいた。

端的に言えば、私はその子の奴隷だった。すべて従ったし、自分から彼女に意見することなど決してなかった。一挙手一投足、彼女の許可をとった。

・小6の時、彼女の家で英会話教室が開催?されていて、私はそれに通っていた。

英会話教室は2階の一室でやっていて、隣室が彼女の部屋だった。授業の前後に、私はしょっちゅう彼女の部屋に入り込んでは(もちろん招かれたので)、漫画を読んだりしていた。授業が終わると、急な階段を降りて、すぐ下の玄関から彼女に見送られて自分の家に帰った。夜になることが多かった。

ある日の授業終わりに、部屋をでると、彼女の部屋に来てと言われたので行った。そこでハグをされた。唐突に、何の言葉もなく。私より背の低かった彼女の、ふわふわした体がぎゅっと押しつけれられて、頭の中はパニックだった。ぴくりとも動くことができず、どれほど時間がたったろうか、これまた唐突に彼女は私の体を離し、もう帰って、と背を向けた。逆らうことなどできなかったので、何も言わず私は帰った。あんなに熱くて、ドキドキした出来事はもうないかもしれない。


・中1、2のあたり、帰り道は必ず二人で手を繋いで帰った。彼女の方から、ごく自然に恋人繋ぎをしてきた。ので、されるがまま受け入れた。幸せだった。

・中1の時、同じクラスで、体育の授業の時間が終わったあと、隣のクラスで着替えて自分たちの教室に戻らないといけないと言う時があった。私とその子と、どちらが先に着替え終わったのかは覚えていない。が、どちらかが先に教室にもどるというとき、去り際に彼女が、ほほえんだ。目と目が合った時間が、10秒にも1時間にも思えた。細めた目が、丸くなって、瞳孔がひらいていくのが、スローモーションに見えた。明らかに恋だった。彼女に関して忘れられない出来事の一つ。



・中2ほどのころ、いつもつるんでいた4人がいた。彼女と、小学校から同じメンバー2人。

あるとき、このグループのうち1人の家で、お泊まり会をした。ケーキを食べたり、かわりばんこにお風呂に入ったり、深夜まで起きてアニメを見たり、最高に楽しい時間だった。

深夜3時ごろになり、私と彼女以外は寝てしまったとき、不意に、彼女が私に馬乗りになった。

月光が窓から差し込んで、彼女の長いつややかな髪を照らした。そのまま、されるがままに、抱きしめあった。そして、間近で目を合わせた。間があった。私の存在は彼女の言いなり、していいよと言われるまでどんな動きもしてはいけない、と思っていた。なので、硬直していた。彼女は顔を近づけるだけ近づけて、そのまま固まって、暫く経ったあと、離れていった。ちゅーしてほしかったのに、と言わんばかりに。私は惑った、それはもう本当に。あとからこの時のことを何度も何度も夢に見た。そんなことできるはずもなかったが、あのとき、ほんの少し、こちらから顔を近づけていれば。思い出すのは月光に白くなった窓と、したから見上げる彼女の体と、影になって見えない彼女の表情、自身の鼓動の音。

5年以上ひきずっている。いまだに彼女以上に好きになった人はいない。成人式の日、彼女に再会した。式が終わった後、振袖の人混みの中で彼女を見つけ、なんとかはなしかけようとした。彼女は鼻にピアスをあけ、知らない男が隣にいた。親密そうに言葉を交わしていた。成人式という場で、旧友もいるはずなのに、わざわざ彼氏といるのか。彼女を目で追いかけるのをやめた。私の恋はあの夜が最高潮だったのだなと、静かに悟った。

.世界への求愛

或る学生の感情倉庫

0コメント

  • 1000 / 1000