冬のバスにて

 一月は、若者にとってのイベントが目白押しである。今日は共通テスト二日目。こないだは成人式があった。

もう、成人式が来年に迫り、他人事ではない行事になっていることに驚く。振袖はもう決めてある。去年の秋ごろ、母に連れられて展示会をハシゴし、一番色味も柄もしっくりとくる、それでいてお財布的にも都合の良いものを選んだ。満足しているので、成人式は楽しみだ。ただしそれまでに、メイク・ヘアアレンジ・ネイル・それからもちろん痩せること、などやることはたくさんある。同窓会は少し気が進まないが、冷やかしのような気持ちで行くことにする。まあ、すべて、春になってから始まることだ。

十九回目の冬を迎えた。それはもうすぐ過ぎ去ろうとしているが、冬の手懐け方が上手になったように思う。それは中学生の時、違和感を覚えてから、今年で五年になるたゆまぬ分析の結果である。冬季うつ。それは私の人生に影を落とし、簡単に治せるものでもない。失敗してはどこが良くなかったかメモを取り、ライフハックとしてまとめておく。それを何年も積み重ねた結果、ここ最近の私は居心地良く暮らせている。冬季うつに限らず、メンタルコントロールも身についた。このように過ごせば精神的に楽だとか、自分の性質はこうだからこのような対策が必要だとか、自分の性格はこうだからこれくらいは許容すべきだとか。時にはネット診断に頼りながら、少しずつ自己理解を深め、生きやすくなる道を模索した。

これは他の人も普通にやっていることなのかはわからない。私は少し変わっているのかもしれない。けれど、このようにしか生きられないんだから、仕方ないじゃん、なんて、呟いてみる。


 話は変わるが、このあいだ、ポケモンの新作が発売された。ゲームの方ではなく(ゲームも去年発売されたが)、ぬいぐるみの方である。ポケモンfitという、手のひらサイズのぬいぐるみを採算度外視で全ポケモン分生産するというシリーズなのだが、それのイッシュ地方編が新発売された。イッシュ地方を舞台にしたゲーム『ポケモンブラック・ホワイト』が世代なので、それはもう喜んで買った。だって、私が人生で初めてポケモンに触れたシリーズの、共に旅をした思い出のポケモンたちが、手のりサイズのふわふわかわいいぬいぐるみになったのだ。この前お迎えして、今は家に二匹いる。いや、買ったのは二匹だが家にいるのは一匹だ。なぜなら、もう一匹は今これを書いている間、片手に抱いているからだ。ちなみに今はバスの中である。そう、持ち歩いているのである。ぬいぐるみを。この歳にもなって。カバンにも容易く入れられるポケモンfitシリーズだからなせる技である。

これまでの人生、家族に喘息持ちの者がいたため、あまりぬいぐるみを買ってもらえなかった。大きなぬいぐるみに飛びついたり、ドールサイズのを着せ替えたりした経験もない。だがこの年齢になって、流石に個人的に買う分はいいだろうと、いまこの二匹を買ってみて、想像もしなかった事実に気がついた。


ぬいぐるみ、めちゃめちゃ安心する──!!


そうなのだ。ぬいぐるみを触っていると、はちゃめちゃに心が安らぐのだ。このモフモフ感、片手の掌に収まってくれるかわいいサイズ。気がついたら撫でている。依存性があるかもしれないとさえ感じる。できるなら学校の机にも、勉強のお供としてパソコンの隣に常時置いておきたいし、お出かけの時も持ち歩いて一緒にお写真を取りたい気持ちだ。私はなぜこんなにも素晴らしいものを今まで持っていなかったのだろう。ぬいぐるみがあれば、私のこれまでの人生は大きく変わっていたに違いない。不安でたまらない時、学校に行きたくない夜、親の怒鳴り声を部屋で動悸をさせながら聞いた夕、ぬいぐるみがいてくれたなら、どんなに楽だっただろう!

そんな今更どうしようもない願望を叫びたくなるくらいには、ぬいぐるみは私の精神にこうかばつぐんだった。

しかもポケモンだからなおさら安心感が増している節もある。知らないキャラクターじゃない、幼少から馴染んだ子だちだから。

しかし、ぬいぐるみに話しかけたり一緒に寝たり四六時中撫で回したりして思う存分愛でているうちに、はたとある事実に思い当たった。

この年齢になってこんなことをしているのは恥ずかしいことなのではなかろうか、と。

心配になったのでググってみた。もしかしたら愛着障害とか愛着形成に失敗しているとかなんとか言われるかもしれないと思って。

結果は、特にそんな心配はなさそうだった。寂しさを埋めている、みたいなことは言われていたが、それくらいどうでも良い。大人になっても子供の時一緒に寝ていたぬいぐるみを手放せないなどは、よくある話だそうだ。

ほっと息をつく。これからもかわいいポケモンたちを抱いて、たくさんお出かけしてたくさん写真を撮って、──ああそうだ、ぬいぐるみ用のお洋服なんかも作ってみたいな──日々を過ごしていこうと思う。

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